就業規則・社内ルールの基礎知識

はじめに

昨今、従業員の『浅はか』な行為で、会社・お店が危機に陥らされるケースが増えています。

しかし、その根底には、経営者・オーナーが法律を理解しておかないことにより、『会社を守れなかった』だけである場合も少なくありません。

  • 会社が禁止している行為
    →会社は従業員に責任を問いやすい
  • 会社が禁止していない行為
    →会社は従業員に責任を問いづらい

会社を守るために、『禁止行為』をきちんと定めておくことは重要です。

他人事ではありません。従業員が何をするか分かりません。きちんと『社内ルール』を整備しておきましょう。

ただし、ルールがあるだけではダメ

ルールは、あればいいというものではありません。

ルールがあったとしても、管理しきれなくなり有名無実化していれば、ルール全体の実効性・有効性が疑われます。

例えば、ある人には許し、ある人には許さないということになると、ルールとしての実効性も認めづらくなります。

さらには、不平等な取り扱いとして、会社の管理体制が疑われかねません。

そのため、就業規則等を作る場合には、以下のように、方針を丁寧に定めることが重要になります。

  • どういう内容について定めるのか
  • どこまで禁止し、どこまで任せるのか
  • どうやって実効性を管理するか

上記をしっかり検討し、過不足のないルールにしなければなりません。

法律が定める『従業員の不祥事』についての会社の責任

使用者責任(民法715条)」

ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

2  使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。

3  前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

使用者の『不真正連帯債務』

民法715条で定められている、『使用者』の責任は、『不真正連帯債務』と呼ばれています。

この用語自体は気にする必要はありませんが、その責任の中身は見ておきましょう。

『不真正連帯債務』というのは、『被害者』は、『従業員』に対しても『会社』に対しても、片方又は両方に対して損害賠償請求することができるということです。

通常は、『従業員』よりも会社の方が資金力がある場合が多いですよね。

被害者の損害の回復が優先されるように、どちらに対しても請求できるようになっているのです。

求償権(民法715条3項)

3  前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

この条文を噛み砕きます。

「従業員分を負担して支払った場合、会社は従業員に対して、従業員に責任がある分は請求することができる」

ということを言っています。

つまり、以下の順番で賠償は進みます。

1.被害者が会社(と従業員)に損害賠償請求する
2.会社が従業員に損害賠償請求する

『求償権』の範囲?

会社が求償権を使う際に、気になるのは、「どれだけ従業員の責任を認めてもらえるか」「会社の責任を小さく判断してもらえるか」となります。

ここで重要になってくるのが、『従業員がやってしまったのは、会社が禁止している行為なのか、許している行為なのか』ということなのです。

『雇用契約書』又は『労働条件通知書』

従業員に会社のルールを伝えるために、まず最初に準備しなければならないのは、『雇用契約書』又は『労働条件通知書』となります。

何が違うのか?
雇用契約書

『雇用契約書』は、名前の通り、『契約書』です。

双方の合意を証明しておくために、双方が署名・押印して作成します。

労働条件通知書

『労働条件通知書』は、名前の通り、『通知書』です。

従業員の署名・押印は必要なく、会社が一方的に通知するものです。

どちらを作ったらよいの?⓵:助成金

助成金の申請については、どちらでも構いません。

例えば、助成金などを申請する際には、「雇用契約書又は労働条件通知書」と記載されています。

どちらを作ったらよいの?②:裁判

裁判を考えると、『雇用契約書』の方が、多少良いかもしれません。例を挙げてみます。

「こういう労働条件で合意していました」という点で、争いが発生したとしましょう。

労働条件を証明するための証拠として、『雇用契約書』や『労働条件通知書』が提出されることになります。

『労働条件通知書』の場合

『労働条件通知書』を交付していたとします。

しかし、従業員から「そんなものは受け取っていない」もしくは「記憶にない」と主張されたらどうなるでしょうか。

会社は、『労働条件通知書を交付した』ということについて、証明しなければなりません。

『雇用契約書』の場合

『雇用契約書』を交わしていたとします。

この場合、相手の署名・押印がありますから、『書面が交付されたこと』や『書かれている労働条件』について、会社の証明は十分です。

このことを従業員が争おうと思ったら、従業員は、以下のことを証明しなければなりません。

  • その署名・押印が虚偽のものであること
  • 強制された署名・押印であること 他

このように、『雇用契約書』があれば、従業員の署名・押印がある分、その点での争いは減らせるのです。

基本:『雇用契約書』・『労働条件通知書』

『雇用契約書』・『労働条件通知書』に記載しなければならない内容は、法律で定められています。

労働基準法第15条:労働条件の明示

第十五条
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

労働条件についての『厚生労働省令』

厚生労働省令

労働契約の期間 / 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準 / 仕事をする場所 / 仕事の内容 / 仕事の始めと終わりの時刻 / 残業の有無 / 休憩時間 / 休日・休暇 / 就業時転換 / 賃金の決定 / 計算と支払いの方法 / 締切と支払いの時期 / 退職に関すること

『労働基準法第15条』『厚生労働省令』を満たさないものは、『違法な労働条件の提示方法』となります。

一方、大したことが書かれていなくても、この2つを満たしていれば、法律的には適法です。

雇用は、企業のカナメです。

そして、その企業のカナメを支配する『雇用契約書』や『労働条件通知書』は、文言をきちんと丁寧にチェックしておかなければなりません。

例を挙げておきます。

休憩時間は自由にできない

『休憩時間』について、どう書かれていますか?

もし、「13時~14時」のように書かれていたら、その時間で休憩を取らさなければなりません。

それを怠れば、『契約違反』ですから、会社にとっては非常に不利な事態に陥ります。

しかし、現実には、「13時から14時は電話がつながらない」というぐらいになっていなければ、休憩時間を毎日同じタイミングで一斉に取るなんて、簡単なことではないはずです。

そこで、『休憩時間』を自由に運用できるための文言を、ルールの中に入れておかなければなりません。

対策は簡単です。

「業務状況によって変更する可能性がある」などの文言を入れておけばいいのです。そうすれば、『契約違反』にはなりません。

うつ病の従業員を休職させたい

「療養の必要がある場合には休職させる」と書かれているものがあります。

しかし、『療養の必要』はどのように判断するべきでしょうか。

それを考えると、「療養の必要があると会社が判断した場合には休職させる場合がある」と書いた方が、会社が判断できて良いのです。

重要:『就業規則』

就業規則を整備しようとしている経営者の皆さん。

就業規則では、何を定めなければいけないか、理解していますか?

就業規則で定めなければならないことは、『労働基準法89条』で明記されています。

労働基準法89条

第89条  常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。

  1. 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
  2. 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
  3. 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
    3の2 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
  4. 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
  5. 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
  6. 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
  7. 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
  8. 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
  9. 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
  10. 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

以下の画像は、厚生労働省が公式に発表しているパンフレットで、就業規則に関して記載している部分です。

<リーフレットシリーズ労基法89条>

まず、用語が難しいですよね。

用語の意味は、以下をご参照ください。

絶対的記載事項

法律で、「これについて定めよ」と定められている項目です。

就業規則に書かれていない場合、法律の基準で認定されることになります。

従業員とトラブルになった場合、最悪の場合には、従業員の言い値で決まってしまうことになります。

きちんと明記しておかなければなりません。

相対的記載事項

法律で、「この内容について有効にしたい場合には、記載しておかなければならない」と定められている項目です。

『相対的』というのは、「絶対に記載しなければならないわけではないけれども、記載しなければ効果がないよ」という意味です。

退職手当や賞与、助成金を使う場合の職業訓練に関しては、定めておかなければなりません。

人材育成系の助成金を使う場合には、『職業訓練』に関する記載が必要になりそうです。

確実に言えることは、これらについて記載しさえすれば、就業規則自体は簡単にできてしまうのです。

高い外注はもったいない?

多くの会社は、「難しそう」「自分には無理」と思って、社労士などに最低でも20~30万円支払って作っているケースが多いと思います。

しかし、上の内容を見れば、大したことないと思いませんか?

最小限の内容を作るだけなら、慣れた人なら1時間程度で作れますから、20~30万は高すぎです。

就業規則を作る作業は全て、作業者の人件費がベースとなります。

大したことのない項目に20~30万円もかけるなんて、もったいないと思いませんか?

絶対的記載事項

絶対的記載事項で記載しなければならないのは、以下の内容です。

以下の内容について、項目を1つ1つ見てみてください。

なお、例えば従業員の賃金は、それぞれ異なって構いませんから、金額等を明記しなければいけないわけではありません。

始業及び就業の時間

会社によって、始業・終業の時間の差はあると思いますが、多くの会社は、簡単に決められる内容のはずです。

原則は1日8時間です。

それを超える場合には、休憩時間を長く設定するか、『変形労働時間制』の導入が必要になります。

休憩時間

法律では、休憩は原則、一律・一定時間与えることになっています。

ただ、そういう運用は、多くのオフィスやお店では難しいでしょうから、「休憩時間は一律に与えない場合がある」などの記載をしておけば問題ありません。

休日

会社・お店では、法律上の『定休日』を定めなければなりません。

それを定めておくのが『休日』です。

なお、休日の振替等が可能で、意識した運用が出来ていれば、ほとんど問題ありません。

休暇

これは、『正月休暇』『お盆休暇』などを与えるかどうかで判断します。

ただ、明確に決めておく必要はなく、「各年の休暇は業務カレンダーで別途定める」というような記載が可能です。

労働者を二組以上に分けて交替

これは、病院や長時間稼働の工場・会社・お店などで定めることが必要な内容です。

普通の会社・お店では関係ありません。

賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給

これが一番大変かもしれません。

基本給の他に、どういう給与を与えることになるのか、決めておかなければなりません。

ただ、多くの職場では、基本給(日給月給・月給・時給)が中心で、その他の手当は、項目があっても、使っていないケースは少なくありません。

まずはシンプルな賃金ルールにしておいて、必要な場合のみ、イレギュラーな対応が可能なように定めておけば、実際のところは問題ありません。

退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

非常に重要な規定です。

これをきちんと定めておかなければ、懲戒解雇等もできません。

ただし、これはほとんどテンプレートで対応可能なものです。

オリジナリティを出そうとしても、むしろ制度的に穴が発生し、運用しづらくなってしまいます。

また、退職時の引継ぎに関する部分については、きちんと引継ぎすること、きちんと引継ぎしなければ、場合によっては損害賠償になる場合があることを定めれば良いでしょう。

いかがでしょうか。

思ったより簡単に、その気になれば30分ぐらいで整備できる気がしませんか?

相対的記載事項

相対的記載事項は、絶対的記載事項よりも、定め方は簡単です。

きっちり決まっている方がもちろん良いのですが、実際にはきっちり決まっている必要はありません。

その例を見ていきましょう。

退職手当・臨時の賃金等

『退職手当』は、よほど従業員に与えたい場合以外、定める必要はありません。

通常は、創業者・役員の退職時に支給するようになっていればいいのですが、下手に定めると、対象となる者の全員に支給する必要があります。

『臨時の賃金』として、「特に貢献があった者については、報奨金を付与する」程度で定めておけば問題ありません。

最低賃金額

多くの会社では、基本的な基準は都道府県が定める金額で考えているでしょう。

これをあえて定めておく意味は、あまりありません。

労働者に食費、作業用品その他の負担

制服があって、それに関する費用を強制的に徴収する場合には、その負担が発生することを定めておく必要があります。

なお、金額については、発注先などによって変わりうるので、明記する必要まではないでしょう。

食費は、『まかない』として無償で付与している場合には、定める必要はありません。

ただ、例えば高級な食材を使うので従業員から徴収したい場合などがあるようであれば、「そういう場合に徴収する場合がある」ことを明記しておけば構いません。

安全及び衛生

ある程度の規模になると、これについての記載は必須となります。

『安全衛生委員会』等の設置が義務となりますから、事実上、就業規則にこれに関する記載もしなければなりません。

一方、それにあたらない規模の会社では、この項目は不要となります。

職業訓練

これは、最も簡単な項目かもしれません。

「必要な能力を身につけるために、社内外の職業訓練を受けさせる場合がある」というような記載でも、問題ありません。

災害補償及び業務外の傷病扶助

多くの会社では、これは国の制度の範囲で取り組みたいことがほとんどでしょう。

あえて定めておく必要はありません。

仮に何か付与すべき状況があったとしても、『臨時の賃金』でカバーできるようになっていれば問題ないでしょう。

表彰及び制裁

これらに関する記載は、概ねテンプレート化されています。

まず表彰に関しては、「特に能力を発揮した従業員や貢献のあった従業員については、表彰する場合がある」程度の記載があれば、表彰することが可能です。

また、制裁については、通常は『懲戒処分』について、懲戒の項目と懲戒の内容を定めますが、これも、『解雇』同様、オリジナリティは出しづらいものとなっています。

その他

これ以上のことは、基本的には「定めなくてもよい」ものとなります。

ただ、『休職規定』については、『うつ病』を発症した従業員を、トラブルにならずに退職させるための仕組みとして、盛り込んでおくことをお勧めします。

就業規則よりも就業ルールを

上記見てきたように、法律上要求される『就業規則』なら、その気になれば30~60分で作れます。

ある程度の従業員数になれば、これらを定めて、『労働基準監督署』に届出する必要があります。

ただ、この内容は、そんなに変更のあるものではないと思いますから、サクッと定めて、提出してしまってもいいと思います。

『就業ルール』の方が大切

お金をかけて作るべきは、『就業規則』ではなく、実は『就業ルール』です。

  • SNSの利用には気を付けよう
  • 会社から借りたものはきちんと変換しよう
  • 引継ぎはきちんとしよう

こういった、従業員に義務を負わせるべき内容については、『就業規則』に盛り込むかどうかは置いておいて、しっかり定めたいところです。

『事業場の労働者のすべてに適用される定め』にあたらない?

一見、『就業ルール』を定める場合、『10. 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項』に当たるように見えます。

実際、これを一律従業員に告知する方法としては、『就業規則』ということになります。

しかし、これを『就業規則』外で、柔軟に運用する方法はたくさんあります。

例えば、末端の従業員に告知する方法をとるのではなく、『上司』とされる者に、指導義務を負わせる方法でも構いません。

この場合には、一部の『上司』に対する、日常の業務指示ですから、『就業規則』で定める必要がありません。

何をどう定めるか

単なるテンプレートをいじくるだけの『就業規則』に、10万も20万も支払うのはもったいないです。

そんなことより、社内のどういうことをルールにしておくか、どういうことをマニュアル化しておくかということをしっかり考え、文書化しておく方が、会社の発展によっぽど寄与してくれます。

会社のルールをどうするか、何を定めるかについては、ぜひ弊社にご相談下さい。

マニュアル化も含めて、ご案内させて頂きます。


執筆者紹介

私立開成中学・高校卒
私立上智大学法学部・法学研究科卒

広告代理店・経営コンサルティング会社を経て独立。法律系・広告系・教育系など、幅広い分野で大手企業の事業を指導。

主な実績として、官公庁の広告類や就業ルール改定、大手製造業の見える化など。大手学習塾や社会保険労務士法人における役員・業務改善責任者・現場責任者などの経験もある。

プライベートでは、ポーカーにおいて、国内の大きい大会で準優勝、国際大会にも複数出場、オンラインで65段階中最高のレイティングを獲得などの実績がある。

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