従業員を雇用する際の注意

守れなくて当たり前の労働法制

飲食店・美容院を中心に、日本の小さい店舗では、雇用ルールをきちんと守れていない店舗は、相当数あります。

2017年、某大学病院が、従業員を残業させるのに必要な書類”36協定”を出していなかったことがニュースになりました。労働関係のルールは、有名無実で分かりづらいものが、多すぎるのです。きちんとやるつもりがあっても、違法状態になっている会社は少なくないですし、「労働関係法令は、別に守らなくても捕まるわけじゃない」と思っている経営者は少なくありません。

対行政という観点で、経営者が労働法制を舐めてしまうのも、非常に分かります。

対従業員という観点では危ない!

対行政では、まあそこまで怖がる必要はないかもしれません。「是正勧告があったから、きちんと取り組み始めた」なんて話はよく聞きます。

しかし、雇用管理が違法状態のままで運用していくと、大きなリスクを抱える場合があります。それは、”悪意のある従業員”が入社した場合です。

私も過去に、従業員に労働審判で訴えられました。法律的なことは、かなり丁寧にケアしていましたが、それでも、”和解”というシステム上、完全勝利にとはなりませんでした。

健全な会社であっても、潰れるまではあっという間ということもあります。実際、”バカッター”という名で閉店に追い込まれた飲食店は少なくありません。どういうことをやっていれば、”バカッター”や、その他の悪意のある従業員・取引先等から、お店・会社を守ることができるのでしょうか。

内容を中心に見ていきましょう。

基本

雇用契約を理解する

雇用契約書の締結は非常に重要

雇用契約書の締結だけは、怠ってはいけません。いや、現実には怠っている経営者が凄く多いのですが。経営者からよく聞く言い訳は、以下のような感じです。

・短時間の人と契約書なんて結んでいられない
・働き方がバラバラだから契約書なんて作れない
・もう少し会社が大きくなったら・・・

従業員が少ない時にこういう基本的な、「やればいいだけ」のことを習慣づけることができなくて、どうして大きくなってから変えていけるというのでしょうか。

むしろ、「雇用契約書なんて知らない」「そんなのあるの?」という人が増えてしまったら、きちんと導入しようと思っても、簡単にはいかないでしょう。それまではそんな書類を渡されていなかった人が、いきなり「解雇」なんて文言のある書類を渡されて、気分がいいはずはありません。

雇用契約書がなければ従業員は自由

雇用契約書は、唯一、従業員を”完璧に”拘束できる書類です。

雇用契約書は、あくまで”契約書”ですから、従業員はそれに従って働く義務があります。つまり、契約書がないということは、会社も自由ですが、従業員も自由ということになってしまうのです。

例えば、雇用契約書を交わしていなければ、雇用形態が分かりません。「正社員として雇われたはず」と主張された場合に、そうではないと主張できる証拠は、通常は雇用契約書しかないのです。

補足

契約は、”口約束”だけでも成立します。それが法律の原則です。

口約束の合意があれば、契約自体は成立しています。両者とも義務を負うことになります。「印鑑を交わしていない」と言い張ったところで、契約が不成立ということにはなりません。

ただし、印鑑を交わした契約書があることは、トラブルが起きた時の重要な証拠になります。証拠がなければ、「契約が成立したことを証明する証拠がない」「契約は成立していない」と認定されてしまう可能性があります。

だから大事な契約では、印鑑を交わすことが重要とされるのです。

保険を理解する

まず、労働保険・雇用保険・社会保険の違いがきちんと把握できているでしょうか。経営者に聞くと大半は、「まぁ、なんとなくは分かります」と答えてくれるのですが、まぁ、この場合たぶん全く分かっていません。

労働保険

労働保険というのは、雇用保険と労災保険です。

労災保険は非常に安い!

労災保険は、従業員が業務中にケガをした場合などに、国が治療費を負担してくれる制度です。労災保険は、従業員を雇ったら、必ず入らなければいけません。これは法律で定められています。

業種によっても異なるのですが、分かっていない経営者が想像しているよりも、遥かに安いです。年収300万円の従業員の労災保険料が、年間1万円ぐらいです。

雇用保険の未加入はとても危ない!

雇用保険は、平たく言うと、失業保険です。その他に、助成金の財源ともなっています。

従業員が雇用保険の対象となる場合、これに加入していなければ、辞めた後に失業保険を受けられません。この未加入は、経営者にとって悲惨な未来が待っています。

「雇用保険に加入していないので、失業保険はありません」

従業員が会社を辞めた後、ハローワークで手続きしようとして、こんな風に言われたとします。こうなると、元・従業員は困ってしまいます。特に、お金にお金に、生活に困ります。この場合、少なくない人が、会社を訴えるという行動に移ると思います。

会社の義務違反は明白です。従業員にできる言い訳は、ほとんどありません。会社は”失業保険分”の損害を補填する必要があります。本来なら、国が払うはずだった、辞めた従業員の生活費の数か月分を、会社が負担しなければなりません。

雇用保険も意外に安い!

これも、びっくりするぐらい安いですよ。小さい飲食店とか美容院なら、フルタイムで働く人1人あたり、月2千円行く人は、1人か2人いれば多い方です。

社会保険

社会保険は、健康保険と年金を合わせたものです。

社会保険は高い!

「保険は高いから入りたくない」

こんな風に言う経営者は少なくありません。確かに、社会保険は高いです。従業員1人あたりの会社負担は、安くても2万円ぐらいは覚悟することになります。

地域によっても変わるのですが、概算で、給与20万円の方が約2万円です。給与30万円の方の場合、約3万2千円です。

なお、個人事業主の場合、加入義務がないお店もあります。法人(株式会社・有限会社・合同会社当)の場合は、対象となる従業員がいれば、加入義務があります。

これと労働保険を混同して、労災保険・雇用保険にも入っていないケースは少なくありません。全く異なることを理解しなければなりません。

補足

虚偽から会社を守る

履歴書・職務経歴書

入社に関する情報に虚偽があれば、契約解除事由になります。大切な証拠となります。

住民票記載事項証明書及び写真

雇おうとしている自称”A山B太”さんは、本当に”A山B太”さんでしょうか。

きちんと確認しなかったがために、犯罪者をかくまっていたというような場合もあります。さらに、従業員が犯罪に巻き込まれるかもしれません。さらに、金庫のお金を持ち逃げされたような時や、バカッターの被害にあった時に、もう二度と見つけられないかもしれません。

そういうことを避けるために、「本人が本人であることの確認」は、想像している以上に重要です。身元は、きちんと把握しておかなければなりません。身元を明らかにすることを嫌がる人を、雇ってはいけないのです。

違反行為から会社を守る

入社誓約書

会社の責任/リスクを軽減して、従業員の自己責任にするためには、禁止行為を明確にしておく必要があります。

会社が禁止していない、勤務中に起こされた従業員の不祥事は、原則として会社の責任です。会社が禁止してる、勤務中に引き起こした従業員の不祥事は、基本的には従業員の自己責任です。

禁止事項を丁寧に定めることで、会社を守ることができるのです。

身元保証書

普通の従業員、特にアルバイトなどは、訴えたとしても財力がなく、損害を賠償できないのが通常です。自己破産されて損害が補填されない場合も少なくありません。

そういう事態を避けるために、きちんと身元を証明し、損害を補填してくれる存在が重要です。そのために、身元保証契約を締結しましょう。身元保証人に支払ってもらえばいいのです。

なお、身元保証契約がなされている場合、保証してくれた人の手前、従業員自身が無茶なことをしづらくなる効果もあります。


執筆者紹介

私立開成中学・高校卒
私立上智大学法学部・法学研究科卒

広告代理店・経営コンサルティング会社を経て独立。法律系・広告系・教育系など、幅広い分野で大手企業の事業を指導。

主な実績として、官公庁の広告類や就業ルール改定、大手製造業の見える化など。大手学習塾や社会保険労務士法人における役員・業務改善責任者・現場責任者などの経験もある。

プライベートでは、ポーカーにおいて、国内の大きい大会で準優勝、国際大会にも複数出場、オンラインで65段階中最高のレイティングを獲得などの実績がある。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする